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 2021に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」は日本の物流政策の指針となっており、当該大綱が発表してから約5年を経った今、物流業にどんな進展及び課題が残っているか、振り返ってみました。  

1.総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の概要:物流DXを中心とした改革の全容

 2021年度から2025年度にかけての「総合物流施策大綱」は、日本の物流を取り巻くさまざまな課題に対応するため、以下の三つの柱を中心に改革を進めることを目的としています。

物流DX(デジタルトランスフォーメーション)と物流標準化の推進

 デジタル技術を活用した物流の効率化と標準化により、サプライチェーン全体の最適化を目指します。この施策では、手続きの電子化、サイバーポートの推進、物流データ基盤の構築、物流施設でのロボット導入などを含み、物流業務の機械化・自動化を加速させることで効率化とコスト削減を図ります。 

労働力不足対策と物流構造改革の推進

 労働力不足に対応し、物流業務の持続可能性を高めるため、トラックドライバーの時間外労働の規制遵守をはじめ、労働環境の整備が強調されています。また、内航海運の安定的な輸送や、共同輸配送の推進、農林水産物・食品などの流通合理化、過疎地域のラストワンマイル配送の持続可能性も確保することを目指しています。

強靱性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築

 感染症や大規模災害にも対応できる強靱な物流ネットワークの構築、産業の国際競争力の強化、持続可能な成長を支えるためのネットワークの構築に取り組みます。モーダルシフトの促進、カーボンニュートラルポートの形成、次世代自動車の普及促進などにより、地球環境への配慮も重視されています。

主要施策とKPI目標

 大綱には、各施策の進捗を図るためのKPI(重要業績評価指標)が設定されています。例えば、2025年までに物流業務のデジタル化に取り組む物流事業者を100%に、トラック積載効率を50%に、物流業の労働生産性を2018年度比で20%向上させる目標が掲げられています。 総じて、この大綱は、日本の物流をDXと労働力確保、持続可能なネットワークの構築を通じて、より強靭で持続可能なシステムに変革することを目指しています。  
 参考資料:総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の概要
 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001464774.pdf

2.現在の進展と実現できた施策:物流DXによる効率化と標準化の成果

では、現在、総合物流施策大綱(2021〜2025年度)の中で進展している施策と、実現が難航している領域について紹介したいと思います。

実現できている取り組み

 ① デジタル化と効率化の推進 多くの物流企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手しており、自動化やデータ基 盤の整備が進んでいます。特に、物流データ基盤の構築や物流施設でのロボット導入が拡大し、効率化が図られています。また、国土交通省と経産省が推進する「フィジカルインターネット」の概念が注目され、物流業界の標準化や情報共有が進みつつあります​。
 
参考:ETP Logistics

 参考:World Economic Forum 

 ② 働き方改革と法改正 トラックドライバーの労働条件改善のため、2024年から時間外労働の制限が適用され、運送業界全体で待機時間削減や効率的な配送スケジュールの調整が行われています。また、改正法により、荷主に対しても物流効率改善の責任を持たせる措置が取られ、物流契約の透明化が進展しています​。
 参考:Mitsui & Co.

 ​参考:Nintendo Music Streaming 

 ③ モーダルシフトと環境対策 陸路から鉄道や海運への転換(モーダルシフト)が推進され、食品流通などの分野で輸送効率化が進んでいます。これにより、輸送時のCO2排出量削減が期待されています​。

    参考:World Economic Forum 

3.進展が難航している課題:物流DX推進におけるボトルネックと改善点

 ① 労働力不足問題 「2024年問題」に直面している労働力不足は依然として深刻であり、今後の対応が求められています。特に、ドライバーの賃金や労働環境の改善は進んでいるものの、需要に対する人材の供給が追い付いていません。このため、労働環境のさらなる改善と人材確保が課題となっています​。
 参考:MLIT
 ​参考:Nintendo Music Streaming 

 ② 低炭素化とゼロエミッション技術の普及  環境負荷の低減を目指してゼロエミッション車両の導入が進められていますが、電気トラックや燃料電池車のインフラ整備には時間とコストがかかっており、広範な導入はまだ始まったばかりです。また、物流施設での省エネ設備の普及も一部にとどまっています​。
 参考:ETP Logistics 

 ③ 物流ネットワークの災害対応強化 災害に強い物流ネットワークの整備については進展がみられますが、地方のインフラ強化にはさらなる投資が必要とされています。特に、自然災害に対する備えとして、地方での物流拠点の強靭化が求められています​。
 
参考:World Economic Forum 

これらの進捗は、官民連携や技術革新を通じて、持続可能で効率的な物流ネットワークの構築に向けた取り組みの一環です。しかし、労働力の不足や環境対策に関しては引き続き課題が残っており、政策の実現には時間を要する状況です。

4.IT開発企業の役割と貢献

   
 IT開発会社の技術やソリューションは、日本の物流業界が抱える複数の課題に対して大きな支援が可能です。以下のような方法でIT技術を活用し、物流分野のDXと課題解決を促進できます。

自動化技術で労働力不足を解消

 IT開発会社は自動化技術やAIソリューションの提供を通じて労働力不足を緩和できます。例えば、以下のような取り組みが考えられます。

  • 倉庫自動化とロボティクス:倉庫内でロボットを活用することで、在庫管理やピッキング作業を効率化し、人手の削減が可能です。AIを利用して需要予測を行い、適切な在庫補充タイミングを提案することも効率向上につながります。
  • 自動配車システムの導入:AIを活用した配車・ルート最適化ソリューションは、ドライバーの時間管理を改善し、配送効率を上げます。例えば、クラウド型の配車管理システムでトラックの予約やルート調整を行うことで、ドライバーの待機時間削減が可能です​。
    参考:Mitsui & Co.
  • 遠隔操作やリモート管理:倉庫や配送拠点での遠隔操作システムは、遠隔地でも効率的な作業管理を実現します。これにより、地方や離島での物流拠点でも効果的な労働力活用が期待できます。

物流データ基盤構築と標準化でデータの有効活用を実現

 また、IT企業は、データの集約と可視化によって物流全体の効率化を支援可能です。特に、データ基盤の構築やIoT技術の導入が重要です。

  • リアルタイムデータの統合:IoTデバイスやセンサーを使用して、輸送中の温度、位置、トラックの状態などをリアルタイムで監視し、データを収集することで物流の可視性を向上できます。この情報は、配送状況の把握や予測に役立ちます。
  • データ基盤の整備:サプライチェーン全体のデータ基盤を構築することで、各社間での情報共有が容易になります。標準化されたデータ基盤を介して効率的に情報を共有することで、全体の物流効率を高めることが可能です
    参考:
    MLIT
    参考:Nintendo Music Streaming 

ITシステムで低炭素化へ

 物流の環境負荷を減らすため、IT技術による省エネ化や環境対応システムが必要です。

  • エネルギー管理システム:物流拠点のエネルギー消費をAIで最適化し、無駄なエネルギー使用を削減することが可能です。これにより、低炭素化とコスト削減が期待されます。
  • 次世代輸送モードの支援:モーダルシフトの推進には、ITシステムを使って、陸路から鉄道や海運への切り替えをサポートすることができます。これにより、輸送の環境負荷を削減し、CO2排出量を抑えることが可能です​。
    参考:World Economic Forum 

物流ネットワークの構築で災害対応を強化

 災害時にも機能する強靭な物流ネットワークの構築は、ITによるリスク管理とBCP(事業継続計画)システムで支援可能です。

  • AIによるリスク予測と管理:気象データや地理情報を活用したAI予測モデルにより、災害時の配送リスクを事前に評価し、代替ルートや緊急対応を計画できます。
  • BCPシステムの整備:クラウドベースのBCPシステムを構築し、災害時のデータバックアップや代替物流拠点の活用を可能にすることで、物流の継続性を確保します。

 これらのソリューションにより、IT開発会社は物流業界の課題を解決し、効率性、持続可能性、および強靭性を強化できます。官民の連携が進むことで、DXがもたらす効果がさらに拡大し、物流業界全体の改善につながるでしょう。